それからというものの、私は家を追い出されたため、リリアの家で寝泊まりする日々だ。

「ゴメンね・・・」

ベッドの上でリリアのマンガをひたすら読み漁る私に、リリアが悲しそうな顔をしながら謝った。
私はふぅっと息をつきながらぱたりとマンガを閉じる。
「大丈夫大丈夫!!全然リリアのせいじゃないって!ぜーんぶリリアを苛める奴らのせいなんだからねっ」
なんて、痛々しいくらいに明るく振舞ってみせるが、やはりこれからのことを考えると先行き不安だ。

手だって・・・ずっとあの時の感触を覚えている。
まるで、血を吸ったスポンジを握りつぶすような・・・そんな感覚が思い出す度によみがえる。

ほら、また手が震えだす。

私はリリアにそれを感づかれないように、そっと自分の手を背後に回した。
しかし、リリアはそれを見逃すことはなく、
「千奈はその手で私のことを助けてくれたんだってことも、忘れないでね?」
そういって優しく微笑んだ。

・・・・。

本当に世界は意地悪だ。
どうしてこんな子がいじめられないといけないのかとか、どうして悩みや苦しみが生まれるのかとか・・・そんな疑問をすべて一つの言葉にまとめて、呟いた。

「逃げたいよ・・・っ」

面倒臭い人間関係なんかない場所へ、毎日が楽しく過ごせる場所へ。

「逃げたい・・・っ」

言葉に出した途端に、一気に涙が溢れそうになった。
そんな私の顔をリリアはまっすぐ見つめて

「じゃーにげよっか!」

そう自信満々な表情で笑って見せる。

「え?」
もうすでに当てはあるのだろうか、少々ドヤ顔気味にリリアはパソコンを開き、キーボードを打ち出した。
「リリア、なにしてんの?」
「ふっふっふ・・・」
なにやら怪しげな声を漏らしながら、キーボードを打ち続けるリリアを私は不安そうに見つめた。

「今の世界ってね!すっごい進化してるんだってー!」
「へ?」
突然何を言い出すのかと、私が問いかける前にリリアは続ける。
「たとえば宇宙へ行けるエベレーターとか、空を飛べる靴とか、いろいろ!!」
「エレベーターね」
「それからねーっ!」
私の突っ込みをリリアは華麗に無視ッ!!

「ネットの世界へ入り込めるようになった・・・とか」

その言葉で、私はやっとリリアが何を言いたいのか、何をしようとしているのかを理解した。
「もしかして、楽園へ行くの!?」