その時。
ドアの向こう側で走り回っている人々がいた。

俺は急いで、母が使っていたベッドを移動させてそのドアを塞いだ。
他に対処出来る物がなかったのだ。


(俺があの日辿り着いたのはやっぱり此処なのかも知れない)
ベッド以外は何もない部屋……


(何で何で俺の部屋と同じなんだよ。こんなにわか仕込みのバリケードじゃ……)

そう思いつつも、俺は彼女を抱き締めた。
是が非でも守ってやりたかったのだ。


もう何処にも行かないように俺の両腕でしっかり抱き抱えるようにして……


時々折れた箇所が痛む。

それでも俺は決して彼女を離すまいと思った。




 ドアを叩く音がする。

ガチャガチャとノブを回す音がする。
でもベッドが邪魔をしてくれた。


(此処は大丈夫だ)

でも呑気にしている場合ではなかったのだ。




 宇都宮まことはブルブルと震えていた。

その歯は小刻みに異様な音を立てていた。


くぼんだ目で、恨めしそうに俺を見つめる宇都宮まこと。


彼女はありとあらゆる薬によって縛り付けられていた。
まるで麻薬中毒患者のように。


母のベッドのバリケードが何時まで保つか解らない。

俺は次の対策を講じなければならなかった。


でも……
此処は、施錠された母の部屋。


鍵を持たない俺には、宇都宮まことを助け出す手段がなかったのだった。




 (此処からだけじゃない。きっと上からも来る!! そうだ!! 眞樹はあの日、宇都宮まことに催眠術を掛けて白い部屋に連れて行ったと言っていた。きっとあの白い部屋のことだ。上から来られたらお仕舞いだ!!)

何気そう思った時。


自分の部屋のドアを思い出した。
内側に開くドア。


(もし此処もそうだったら、俺がバリケードになろう)
俺はそう思った。




 眞樹のいる有事対策頭脳集団に抵抗することなど出来ないかも知れない。

でもオカルト教団には屈したくなかった。


俺はその時、眞樹が命令したのに間違いないと思っていたのだった。