佐伯真実は若林結子に宇都宮まこの母親になることを懇願した。


そのために用意されたのが、施錠された部屋だった。


母はきっと其処で眞樹に乳房を与えた。

血管が浮き出すほど硬く腫れ上がる苦痛から解放される度……


母は愛を育んだ。
それはその部屋でなくてはダメだった。


乳母のことはきっと誰にも気付かれてはいけないことだったはずなのだから。


眞樹とまこと……
二人の兄弟は其処で育てられたのだった。


授乳を誰にも見つからないように大切にされながら。


その時、きっと俺は孤独の中にいたのだ。
だからさ迷い続けたのだ。




 施錠された部屋……
俺は其処で宇都宮まことに逢った。

まことはひどくやつれていた。


彼女は薬物中毒にさせられていたのだった。


彼女に付けられたら様々な病名。
うつでは、抗うつ薬。

頭痛ではアスピリン。


様々な薬が治療と言う名目で投与された。


ショック症状。
アナフィラキシー症候群。
貧血。
アスピリン喘息。


幾多の副作用が宇都宮まことを襲う。

きっとそれらをデータベース化して、業者に提供していた若き科学者。


有事対策頭脳集団は、本物のオカルト教団になっていたのだった。


市売の薬品の中には、組み合わせによっては死を招く薬も存在する。

それらの事故も多発している。
科学者等は小遣い欲しさに、人体実験を繰り返していたのだった。


それは、新薬の実験を受け入れてくれる場所が無いからだった。


医師も患者も、人材不足だったのだった。


そこで、目をつけたのがオカルト教団だったのだ。


母の言葉を思い出す。
あのまことは教団の宝と言う意味は、これだったんだと思った。

まことは教団の実験材料として多額な報酬を得られる、まさにドル箱だったのだ。




 何故宇都宮まことが此処に居るのか?
意味が解らなかった。


(逃げて来たのか? 母が助けたのか? それとも自ら?)

俺は最後の考えを信じようと思った。


宇都宮まことは俺との暮らしが忘れられなくて、此処に逃げ込んだのだ。


自己満足だ。
それにすぎないと思う。