養父に気付かれる前に俺を抹殺するために……。


其処は元々眞樹の遊び場だった。

眞樹は愛犬のチワワと此処で暮らしていたのだ。


(だから俺は子犬の鳴き声を聴いていたのか?)


どんなに探しても見えなかった真実を、ツーショット写真が証明していた。


兄弟は何も知らず、上下の部屋で生活していたのだった。


全て父の実験台として俺に与えられた試練だった。


家に居るはずの母が急に見当たらなくなる。
俺はその度恐怖にかられる。

俺の、俺だけの母が……
やっと戻って来てくれた母が又居なくなる。

俺が成す術もないままに、幽体離脱を生み出した元凶が其処にはあった。

その部屋は悲しいことに母の寝所へ繋がっていた。

母は眞樹に問題が起こると直ぐに抜け出していたのだった。
俺には何も言わないで……


俺が夢の中で見た自分はきっと眞樹だったのだろう。


俺達は俺の幽体離脱のお陰で、本当は子供の頃に出会っていたのではないのか?


母の部屋に置いてあったのは、二段ベッドの片割れだった。




 俺の部屋同様、殺風景で何も置いてない。


母恋しさの余り俺がたどり着いた境地。

さまよい……
もがき苦しんだ果てに見つけ出した安らぎ……

施錠された母の部屋。




 広い……
果てしなく白い……
あの夢の中で……


俺はこの部屋にたどり着いたんだ……


でも俺は、俺の部屋とは違う物を見つけた。


それは……
ベッドの跡だった。


きっと二段ベッドの片割れが置いてあったんだ。


きっと其処に宇都宮まことが眠っていたんだ。

そう思って部屋を見回す。




 そして……
遂に俺はその部屋の隅に宇都宮まことを発見した。


宇都宮まことはベッドの後ろの片隅でうずくまっていた。


俺は後ろから抱き締めた。
でも反応はなかった。


胸を強打したはずの彼女だったが、痛がりもしなかったのだ。


俺が心配になり顔を覗き込むと、虚ろな目だけを俺に向けていた。


でも次第にその表情に変化が現れた。


宇都宮まことの目が少し輝き始めだのた。


それは、其処に居るのが俺だと理解出来たからだと思った。


宇都宮まことは今俺の腕の中で、僅かな希望を見出したかのように表情豊かになりつつあった。