宇都宮まことが目の前から居なくなる。

母を既に眞樹側に渡した俺には、これは屈辱的な行為だった。


俺は眞樹を恨んだ。
そうすることで、やっと自分保てたのだった。

いや、出来るはずなとあるわけがない。
俺の中にぽっかり空いた穴は、広がる一方だった。




 あの部屋は施錠されたままだった。
でもきっと其処から、オカルト教団が彼女を連れ戻しにきたのだ。


母の使用していた部屋。

その鍵位、簡単に開けられてしまったのだ。


教団の重要な資金獲得のために、彼女が必要不可欠だったのだ。


宇都宮まことには更に辛い試練が待ち構えていたのだった。




 でも俺は立ち上がろうとしていた。

オカルト教団から宇都宮まことを救い出すために。


「愛と言う名のもとに!! まことのためだったら俺はこの命さえ賭けられる」

まことの愛が治してくれた指先を拳に変えて、俺は自分の胸の叩いた。




 眞樹の言っていたあることが気になっていた。

俺は退院後初めてあの部屋に行ってみた。
眞樹が三階だと言った、二階にあるあの真っ白い部屋へ。

一番奥にある一度も開けたことのなかったドア。
俺が屋上のドアだと思い込んで開けてしまったドア。
この目で確かめてみたかった。


宇都宮まことが其処にいるような気になっていた。




 集中治療室で眞樹は、催眠術を掛けた宇都宮まことをこの部屋に連れて来たと言っていた。


(と言う事は、俺達が一緒に落ちるところを見ていたのか?)

きっと恋に狂った俺の姿は滑稽に映った違いない。


(俺は此処から何処へ逃げようとしたのだろうか?)

俺は何も知らずに、ただ母を求めて幽体離脱した子供のままでいたかっただけなのかも知れない。




 白い部屋を隅々まで捜す。


宇都宮まことの手掛かりが欲しかった。


俺は此処でずっと絵を描いていた。
母の居ない寂しさを紛らわすために。


そんな……
実際には見たくもないカンバス。


俺はその中に、宇都宮まことを見つけ出した。


あの日。
俺が学校の美術室で描いた絵が、其処にあった。


(やはり……やはり此処だったのか……)

俺は、五感で書き上げた宇都宮まことの裸婦像を抱き締めていた。