「痛っ」

その声に驚いて見ると、宇都宮まことの指先から血が出ていた。
俺は躊躇わずにその指先を口に運んだ。


赤い血を舐めると懐かしい味がした。
でも、それが何なのか思い出せない。


そして冷蔵庫からトマトジュースを出して飲む。


「あれっ違う……」
それは何時も母が準備してくれた物ではなかった。


(あれっ、でもこの味何処っかで……)

それが何処なのか解らない。
でも、つい最近のような気がした。





 俺の孤独を埋めることが自分に与えれたら運命だと宇都宮まことは言う。

勿論俺は泣いた。
愛した彼女と一緒なら、どんな苦労も厭わない。

でも俺にそんな資格があるはずはない。

俺はまだ……
未だにあの夢に苛まれている。

俺はまだマザコンのままだったのだ。




 何気に見た腕に、無数の注射痕を見つけた。


「あっ、これ。教団に病室があって処置されたの」

俺の視線を気にしたのかまことが話してくれた。

有事対策頭脳集団には医師もいて、診察だけではなく手術室も完備されている。
まことはまだ手術は受けたことはないが、眞樹は何度か其処で処置さるているらしかった。


「眞樹が、何で?」


「良く解らないけど、奈津美が自殺未遂じゃないかと言っていたわ。だから物凄く心配していたの」

まことの言葉を聞きながら俺は思った。
日本一になる苦しみが原因ではなかったかと……


「眞樹さんは教団の宝だから、必死に隠し通すんだって。そんなこと奈津美も言っていたから、案外的を得ているのかも知れないと思ったの」

まことの発言に、俺は母との会話を思い出していた。


『だけど教団が放すはずがないわ。だってあの子は教団の宝だから』
母は確かにそう言った。

でも眞樹のことではない。
まことのことだったはずだ。

俺はきっとまことも辛い体験をしてきたのだと思った。


有事対策頭脳集団は、やはりオカルト教団だと俺は確信した。




 でもある日、宇都宮まことは居なくなっていた。


「嘘だろう!?」

第一声はそれだった。


「ねー。隠れてないで出て来てよ!!」

一人に慣れてた俺が、孤独を恐れていた。

宇都宮まこととの触れ合いのなかで、それは今までに感じたことのない恐怖となっていたのだった。


俺は泣きながら、あちこち探し回った。
でも……
何処にもいなかった。