俺はあの家で一人暮らしを始めた。

母に眞樹を愛してもらうためだった。

これが俺の出した答えだった。

それで少しは愛に飢えた心が癒せるかも知れない。

効果のほどは疑問だったが、同じ運命の兄弟を助けてやりたかった。


(本当に母さんが必要なのは俺の方なのに)

俺に待っているのは更に孤独の生活のはずだった。


(仕方ないよ、眞樹を助けることが先決だ)


教団のトップになる眞樹を待つ試練。

母の愛を借りて其処から救ってやりたかったのだ。


本当はオカルト教団なんて、すぐにでも辞めてほしかった。

俺の親友だから……

俺の兄弟だから……

同じ代理母の……

同じ血を共有した双子だから……
認めた訳ではないのだけど……




 宇都宮まこととの交際は順調だった。

彼女は一生懸命に俺の孤独を癒そうとしてくれた。


その笑顔……
その優しさ……
全てが俺の宝物だった。


あの日……
協会の祭壇のの前に跪き、誓ってくれた俺との結婚。


俺達は本気で、高校卒業と同時に結婚することを考えていた。

男は親の許可があれば、十八歳から結婚出来るから。
女性は十六歳。
何かズルいと思った。
だって男も同じだったら、俺達は今すぐにでも結婚出来るのに……




 でもオカルト教団の生活が耐えられない宇都宮まことは、いつの間にか俺の家で生活を共にするようになった。


本当は逃げて来たのだ。

俺はそれを知りながら、彼女を招き入れた。


佐伯真実と母の許可は貰って来たと言う。

俺はそれを信じた。


今まで母の使用していた部屋が、宇都宮まことの部屋になった。

彼女は母から鍵を受け取っていたのだった。




 俺がまだ一度も足を踏み入れたことの無い部屋。

そんな部屋だからこそ、一線を越えられないでいる。


俺はまだ童貞のままだった。




 俺のために一生懸命に料理を作る。

きっと初めてなのだろう。
包丁を持つ手がぎこちない。


朝の目玉焼きの玉子を割ることにも苦戦する。
そんな彼女が愛しい……


何気に振り向いた時の、エプロン姿に思わずドキッとする。

どうしようもなく、抱き締めたくなる。


でも……
結婚するまでは守ろうと決めていた。