俺は眠りの中にいた。
又あの白い……
夢の果てに。


「ママー。ママー」
俺は又母を呼ぶ。

でも今日は少し違っていた。


あの……
俺の目の前に幸運が迫った日の記憶が脳裏に甦る。

その途端に、場面が変わった。

目の前に母の胸が現れたのだ。

俺は夢と知りつつ、思い切って母の胸に顔を近付けた。


その時……
母は俺の背中に手を入れて抱き寄せてくれた。

夢が又叶った……
俺はそう思って、再度嗚咽を漏らした。


あの白い夢の中で……
何度もさまよい求め続けていた母の胸が俺の顔を覆った。


『やはりまだ赤ちゃん?』

母はそう言いながら笑っていた。
笑い声だけではない。その表情まで解るんだ。
夢だからかな……


『当たり前だよ。俺はずーっと、ママの赤ちゃんだ』

思い切って言ってみた。
夢とは解っていても嬉しかった。


俺の声は震えていた。

泣き声と……
母の胸に当たる唇で……


あの日解らなかった母の息遣いさえ手に取るように見える。
母は泣いていた。

俺の首筋に冷たくて暖かいモノが当たる。
母の涙だった……




 (ああ母さん……、俺だけの母さん!!)

俺はあまりの嬉しさに興奮して、ベッドから落ちていた。


「ママー!!」
そう叫んだ時、ハッとして目が覚めた。


「痛っ!!」
俺は思わず声を上げた。

でも、何処にも異常は無かった。
ベッドからも落ちてはいなかった。

俺は夢に見て、現実だと思い込んでしまったのだった。


(何なんだ?)
俺は暫く呆然としていた。


あの日、俺は嬉しさのあまり言葉に詰まった。
母にありがとうと言いたかったのに……。

だから夢に見たんだ。
目の前に幸運が迫った日の記憶を……
俺は甦らせたんだ。

だからその途端に、場面が変わることを希み……
変わらせてみたんたんだと思った。


俺は慌てて病室を見回した。

もしかしたら母が居てくれる。
そう思った。

でも其処に母がいるはずもなく、シーンと静まりかえっていた。




 隣の部屋に居るはずのまこと姿が個室のガラス越しに見える。


「ごめんごめん。起こしてしまったね」
俺は素直に謝った。

俺はきっと……


『ママー!!』
と叫んでいたはずだ。
夢の中だけではないと感じた。