「あの子が好きなの?」
母が聞く。

俺は頷いた。


「何だか良く解らないんだけど……テーブルで携帯ゲームをしていたら目の前に居たんだ」

俺は朝の出来事を包み隠さず話した。

突然学校閉鎖になった事。

眞樹の携帯電話で遊んでしまった事。

ゲームに夢中になって宇都宮まことを追い掛けた事。

そして……
二人で逃げたくなって、学校の屋上から身を投げ出した事。


「学校!?」


「うん、確かに学校だったよ」


「おかしいわね。喬が堕ちたのは、お店の前に止まっていたトラックの幌の上だと聞いているけど」




 「トラックの幌?」

俺の言葉に対して母は頷いた。


(だから……)

だから助かったのか?

俺は眞樹の言っていた事を思い出していた。


『でもまさかこんな結果になろうとはな。運がいいなお前は、死んでいてもおかしくはなかったのに』

確かに眞樹はそう言った。


俺は、声を出して泣いていた。
泣かずにはいられなかったのだ。


もしかしたら人殺しになるかも知れなかった。
心中事件になるかも知れなかった。

でも宇都宮まことのサイドから考えると、恋に狂った俺に依る無理心中事件だったのだ。


トラックの幌でバウンドしてから地面に叩きつけられた俺は……
咄嗟に着いた手を痛めた。


宇都宮まことの場合は幌の脇組で胸を強打して、肋骨を痛めた。


二人共九死に一生を得たのだった。




 「あの子はいい子よ……だけど」

母は口篭もった。


「だけど教団が放すはずがないわ。だってあの子は教団の宝だから」


「宝?」


「そう、宝」
母はそう言いながらも暗い顔をしていた。


俺は心配になって、母を見つめた。

母は泣いていた。

そのことで、俺は宇都宮まことの背負わされた運命の大きさを感じた。


(教団の宝? やはりオカルト教団だったのか)

俺は宇都宮まことに目をやってから又母を見つめていた。


「実は……」


長い長い沈黙が流れる。




 そして母は……
やっと重い口を開いた。


それは、宇都宮で起こったとある事件の一部始終だった。