そして母は……
父の天才科学者との出逢いを語り始めた。


「私は……、博士を愛していたわ。だから代理母をかって出たの」

母は俺の手を軽く握った。


――ドキッ!

俺の心は早鐘のように鳴り響く。


(ああ! どんなにこの瞬間を待っていたことか……俺の……俺だけの母さん……でも本当は……手だけじゃイヤだ!)

俺はこの期に及んでも、まだ母の胸を求めていた。




 (抱いてほしいよ母さん……子供の頃のように抱きかかえてくれたら……抱っこして……! お願い抱っこして……! 頼むから抱っこしてくれー!!)


俺は泣いていた。
叶わない夢……


それはもう……

あの白い夢の中ではないと叶わない夢だった。


(お願いママーー!! 抱っこして〜ェ)

俺はどうしても母に甘えたくなって、思わず体をよじった。


――痛っ!


(遣らなけ良かった!)

浅はかな俺は……
母に気付いてほしくて、ただそれだけで……
痛む体を更に傷つけようとしていた。




 その時……
母の胸が……
俺に迫って来た。

手を伸ばしたかった。
でも俺の両腕は固定されていた。


「ごめんね少し痛いけど」
母はそう言いながら、俺の体位を変えてくれた。


母の手の甲が、俺の背中から出された時、夢のような一時も終了した。


「十七歳か……、もう大人よね?」
母は言う。


(違うよ母さん……、俺はまだ子供だよ。俺は子供のままで、母さんの子供のままで居たいんだ……)




 「子供だとばかり思っていたら、すっかり大きくなって」

母は少し躊躇いながら、固定されている俺の手を再び握った。


俺の腕はどうやら骨折したらしい。
ギブスに両手が被われていた。


母は泣いていた。
俺が泣かせたのだ。
母はやはり、俺を愛してくれていたのだった。


「私は捨て子だったの。産まれてすぐに施設の車の中に遺棄された」


「遺棄!?」
俺はその言葉に震えた。


死体遺棄は知っている。


殺したりして亡くなった人の遺体をゴミのように捨てる事だ。


母はもしかして殺されかけたのか?
守って貰うべき自分の母親によって……