何度も何度も繰り返される検査。

成美はすっかり医師を信じてしまっていた。


自分は子宮筋腫ではなく、癌だったと思い込んでいったのだった。


実はこの時の検査には、体外受精の準備段階の薬が使用されていたのだった。


それは排卵を抑えるための薬だった。

排卵をされてしまったら元も子もない。

先ずはそれから、其処から始まったのだった。

神をも冒涜するような実験が……


子宮癌を完治させようと決意した成美に迷いはなかった。
医師の指示通り、まさにその身を任せてしまったのだった。




 体外受精を行えるえる卵を得るには約一カ月半程度かかる計算だった。

そのために家族にも成美の子宮に癌が見つかったと説明することとした。


抗癌剤だと称して性腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログを服用させ、性腺刺激ホルモンを放出する脳内にある下垂体の作用を麻痺させた。


ダウンレギュレーションを起こさせ排卵を防ぎ、卵包を成長させるためだった。


続いて月経ゴナドトロピンの注射を9日連続で行い、最後にヒト絨毛ゴナドトロピンを注射し排卵を誘発した。




 氷室博士教授は、代理母となる女性の本当の正体を明かさなかった。

親族には、内縁の妻だと言っていた。

でも有事対策頭脳集団にはひた隠しにしたのだった。


受精卵が定着したら普通の産婦人科に通わせるためと、自分の正体がバレることを恐れたからだった。


博士は本当に超天才を産み出したかったのだ。
だから、アメリカからの留学生・マリア・ローズ。

その人だと言うことにしたのだった。




 シャーレの中で、小松成美の卵と氷室博士教授の精子が掛け合わされる。


博士はきっと狂喜乱舞したに違いない。


本来なら、それだけが目的だったはず。


でも子宮癌と言った手前、手術は強行された。


卵巣および子宮摘出手術は、癌巣滅亡のためだと信じて疑わない家族によって大成功を収めたのだった。


それが普通の癌治療ではないことを、成美は気付いていた。


それでも成美は口を閉じる。

何かの勘違いかも知れないと思っていたからだった。


その頃はまだ、体外受精卵による代理出産は水面下の話で、一般には余り知られていなかったのだ。