かすかに聴こえて来る電話の音。


「何だよ。朝っぱらから……。母さん電話だよ」

寝不足なのか。
それとも寝すぎたのかもわからないまま、俺はまだフラフラの頭で母を呼んでいた。


目が覚めて、眠気眼で辺りを見渡す。


(そうか。母さんは仕事か)


やっと判断して立ち上がろうとした。

――ガーン!!

その途端に頭のてっぺんをおさえた。
ベッドの上部にある明かり取りの宮から突き出した教科書置きに思いっきり頭をぶつけていたからだった。


その弾みで落ちた教科書を拾いながら、急に切なくなった。


「だからお子様用のベッドはイヤなんだ!」

俺はやり場のない怒りをベッドにぶつけた。


「俺はもう高三だ! 何時までも子供扱いしないでくれよ」

半ベソかきながら教科書を元に戻した後、ベッドの縁にある柵を超えた。

その柵に背中を押し付け、床に腰を下ろして頭に手をやった。


タンコブや陥没は無いようだったが、触るとガンガン頭に響いた。


俺は暫く動けなかった。


目をそっと動かす。

無駄に広い空間が更に虚しく映った。


早く電話に出なくてはいけないと気は焦る。
でも、それどこじゃなかった。




 内開きのドアー。

フローリングの床。

ベッドの脇の壁側に、明かり取りと通気のための小窓が二つにある。

それぞれに、カフェカーテンが突っ張り棒に掛かっていた。


その下の僅かな隙間から見えるのは、雑木林とその手前にある自転車置き場。


其処には通学用のスポーツタイプと母用のママチャリが置いてあった。


でもおかしいんだ。
ママチャリがあっても母が居ない……


そんなことばかりだったんだ。


でも一応、母の在宅率の目安にしてはいた。


反対側は壁で、塾の名残の教室に隔ててられていた。


(ベッドだけなら、半分でも足りるのに……)


やるせなかった。
どうせなら、二段ベッドの片割れでも側にあればいいと思った。


(いっそ、これが二段ベッドのままなら良かった。荷物置きになるし、勉強するスペースにもなる。それに、誰かが上で寝ていてくれると想像出来るから……)