何故だか俺は……上の空だった。

頭がボーっとしていた。


でも……
眞樹の話しが判ると言うことは……


どうやら俺は、頭からは落ちなかったらしい。


それだけでも救いだった。



(はっきりと覚えてはいない……思い出しもしない……俺は……俺達は何処からどうやって堕ちたのだろうか……? 学校の屋上を目指して……解放されたくて……でも一体何から?)

俺は途方にくれていた。




 (俺達の父が……氷室博士教授? 母が……小松成美……って言うことは……えっ!? 俺達は兄弟!? もしかしたらクラスメートが言っていた双子ってやつか!? いや違う……そんなハズはない!!)


俺はまだ信じられずにいたんだ。


イヤ……
俺は信じたくなかっただけかも知れない。


(俺の母は……この人だけだ。俺のベッドで……俺を抱いてくれた……この人だけなんだ!!)

俺は困惑する頭の中で母を見ていた。


でも……
俺達は兄弟だった。
本当の双子だったのだ。

それを理解するまで、相当な時間を必要とするはずだけど。




 氷室博士教授。
名前からして科学者一家かと思われるが、実のところ違っていた。


父親は普通のサラリーマンだった。

でもその名前には、大いなる期待がかかっていた。

大学院で博士号を取る。

それが父親の子供の頃からの夢だったのだ。


父親は昆虫などを観察しては、その実態などを調べていた。

それは趣味の範囲を大きく逸脱していた。


だから博士は、父親の影響をモロに受けて育っていったのだった。


その頃……
天才を育てる幼稚園が注目を集めていた。

博士はそこへ送り込まれたのだった。


自然科学分野で、博士の才能が開花する。


それは……
俺達の母である、小松成美との出逢いがあったからだったのだ。




 成美は生まれた時から天才だった。

でもその事実に両親は気付かなかった。
開花したのは博士と出逢ったからだった。


成美は昆虫好きな博士に興味を持った。

そのことで、自分も昆虫の観察を始めていたのだった。


それは淡い初恋だった。