目の錯覚かも知れないと思った。

彼女の形をした等身大のフィギュアかなとも考えた。

でも俺は確かにその時見た、宇都宮まことが隣に寝かされているのを……




 宇都宮まことは存在していた。

今確かに、ベッドの上で微かな寝息を立てている。


何が何だか解らない。
でも嬉しかった。

バーチャルな恋だと……

存在すらしてないと……

思っていた。

それが何故?

何故だかゾクッとした。

俺は……
俺達は、ただ誰かに操られていただけなのか?

それが誰なのか俺には思い当たった。

宇都宮まこととプレイ中、聴こえてきた男性の声に覚えがあった。

(そうだ。確かにあの声は……)


「其処に居るんだろう眞樹?」

俺はそいつの名前を呼んだ。




 「その頭で良く分かったな」

ドアの陰から出てきたのは、確かに……
さっき俺が口走った名前の持ち主……
望月眞樹だった。


まさか……
まさか本当に、眞樹が此処に居るなんて……。

実は、俺は予想だにしていなかったのだ。


出任せだった。

だから言えたのだった。


「何時からだ?」

でも……
俺とは対照的に眞樹は冷静だった。


眞樹は宇都宮まことに指の甲で頬摺りをしていた。


「辞めろ!! 汚い手で彼女に触るな」
俺は思わず起き上がった。


(汚い手……? 眞樹はさっきまで俺の親友だった。そんな眞樹に俺は何て言うことを)


――ズッキーン!!

立ち上がろうとしたら、痛みがが全身に走る。


我に戻った時、それは苦痛として広かった。


(嘘だ……嘘だ!?)

それでも俺は肯定出来ずにいた。

俺の頭は完全にイカレてしまったのだろうか?


『甘えたいし』
『抱き付きたいし』
でも本当は
『逃げたい』

二人で逃げたい!!
俺はあの時そう思った。

バーチャルなラブなんてイヤだと思い、俺は宇都宮まことの手を取り走ったんだ。

だから……
眞樹が此処に居ることが信じられなかったんだ。


でも俺は肝心なことを忘れていた。

バーチャルなラブの相手の手を取って逃げるなんて出来るはずも無いことを……