ニューハーフの体を見たわけでも、触ったわけでもない。
でも……
何か違うように思えた。

俺の五感全部で感じた宇都宮まことは、優しい女の子そのものだった……。


何故だか解らない。

さっき触れた宇都宮まことの柔らかい胸、お尻。
指先と掌が全て記憶している。

何故だかゾクッとした。

天才か悪魔か?

一体俺は何なんだ!?

このゲームはきっと、脳にダイレクトに働きかけるのか? だからきっと感覚が残るんだ。

俺は全部をこのゲームのせいにした。


自分の正体を考えるのが怖かったからだ。

初めて画面を見た時の目の奥に覚えた違和感。

目まぐるしい変わる映像の中に、俺は入って行ったのか?

引き込まれたのかは解らない。

でも全ては其処から始まったのだ。




 (そうか!! 脳に直接リアル感をインプットさせるためのゲームなのか? だから、アンビエンス・エフェクトなのか?)

その時俺は突然閃いた。


(だとしたら? あの違反の映像? あー、だから無料なのか?)


俺はこのゲームの仕掛けがこれだと思い込んでいた。


そう……
コマーシャルに使用されて禁止になった割り込み映像。

俺はその時はそう思い込もうとしていた。




 でも、俺の頭は別のことも考え始めていた。

子供の頃から放ったらかしで、母は仕事優先。
母一人子一人だから仕方がないと諦めていた。

俺の遊び部屋は真っ白で、どんなに落書きしても怒られなかった。

俺には解っていた。
母が天才画家として育てようとしていることが。

時々真っ白い部屋が映写室になった。

女性が、五感の全てを使って絵を描いていた。

それが誰なのかは判断がつかない。


でも俺は解っていた。
母が俺の進むべき道を示しているのだと。

俺は今完全に幽体離脱しているはずだ。


(幽体離脱!? そうか、それで飛ぶんだ。そうだよ。俺はエスバーか何かだ。だから宇都宮まことの裸体がこの手で描けるのだ。俺の本体はどっちなんだ? 携帯帯画面を食い入るように覗いている俺か? それとも?)

俺は結局、そっちの考えを優先させることにした。