でも口角が上がってる気がしてる。


(宇都宮まことか? うん。確かにかわゆい……)

目を閉じると、頭の中に宇都宮まことのボディーが浮かび上がる。


あの真っ白い部屋で、俺が子供の頃から描いてきた女性の裸体。


理想だった母の裸体。


夢の中で何時も母を追ったように、現実でも俺は母の胸を求めていた。


満たされない思いが、その胸に集約されていた。


俺は高三までになりながら、心は幼児のままだった。


俺は何時しか、宇都宮まことのボディーに母を重ねていた。




「ママー。ママー」


俺はもう一度夢の中へ戻りたくなって、目を閉じた。


母だけを追い求めていた頃へ。


宇都宮まことを知らなかった頃へ。


でも現実は頭の先からつま先までも、宇都宮まことで埋め尽くされていた。




 その時、お腹がキュルルと鳴った。
俺はその途端に、現実へと引き戻された。


(そうだ朝御飯)

やっと俺は、リビングに居る実感に浸った。

それと同時に急に可笑しくなった。
俺は大声で笑いながらダイニングテーブルに移動していた。


(さっきのは何だったんだ!? 何故屋上に!?)

答えなど解るはずもない。

それはずっと胸の奥で抱えてきた疑問。


母を探す旅……。

俺はリビングダイニングの横にある母の部屋へと繋がるドアを見つめていた。




 常に施錠してある母の部屋。
俺の侵入を拒み続ける。

でもこれが当たり前だと思っていた。

そう今までは……


ただ時々、どうしても中に入ってみたくなる。

子供の頃のように母の胸に抱かれたくなって……


(確かママチャリはあった。母さん……今何処にいるの?)

俺はドアの向こう側を再び見つめた。




 その時、又お腹が鳴った。


(そうだ忘れていた。今の内に充電充電)

俺は充電機を二階にある自分の部屋から持って来て、ダイニングテーブル脇のコンセントに差した。

俺は昨日相当疲れていたらしく、鞄を持って上がらなかったらしい。


(そう言えば、確か宿題もあった……ま、それはラッキーだっつうことで)

俺は学校閉鎖になったことを密かに喜んでもいた。




 時計を見ると、まだ九時だった。

もう何時間も宇都宮まことを追い回していたように思えた。