ゲーム内容は殆どが恋の駆け引きだった。

宇都宮まことが誘惑する。


『ねえぇー。どっかいい所に行かないぃ?』


『誘惑される』
『逃げ出す』

アクセスボタンを矢印で合わせて5を押す。

迷わず誘惑される!


俺は……
本当に誘惑されたがっていた。


そう……
宇都宮まことにに……。




 瞬間に画面が変わる。

その時俺は、目の奥に違和感を感じた。

脳の奥に何かインプットされたような気になった。

それが何かは解らない。

ただ俺は、無性にこのバーチャルラブがやりたくなっていた。


設定は学校だった。

俺は宇都宮まことの後を必死に追った。

階段を登り、着いた場所は屋上だった。


何故だかぞくっとした。

その途端に、高所恐怖症だった事を思い出して足がすくんでいた。


母を追いかけ……

母を求めて……

飛んでいた……


あの白い夢の記憶が心の底によみがえる。


俺はそれを悟られまいとして必死だった。

だから思い切って目を開けてみた。




 何処かで見たような風景が目の前に広がっていた。

遠くに川が見える。
子供の頃友達と魚を釣った川に似ている。


俺に初めて出来た友達。

二人は何時も自転車で出掛けた。


(アイツ……確か、近所の養護施設の子だったな? 今、どうしているのだろう? 確かあの後……引っ越して行ったんだ。そう言えばアイツ頭が良くて……宿題を一緒にやったな……)

アイツの居る施設では、みんな競い合って勉強しているって言っていた。


だから……
俺が羨ましいって良く言われたっけ。


そうだよな……

親が五月蝿くないのは、他の人からみたら魅力的なのだろう。


俺の孤独を知らないから、そんなことが言えるのだと思っていた。




 でも……
アイツはもっと孤独だったんだ。

みんなライバル。
そんな中の孤独……。


蹴落とすために仕掛けられるトリップ。

アイツはこっそり打ち明けてくれたんだ。


こんな俺を信用して……。


急にそんなことを思い出していた。


(そうだ。俺にも、親友と呼べる人がいたんだ。そう言えば……確かアイツも、名前に地名が付いていたな? 確か……そう、松本君だった)


懐かしかった。
何故思い出したのかは解らない。