だから俺はとりあえず、眞樹の身代わり。

仕方なく引き受けた。
てなとこだ。


俺は暫く、眞樹の影武者になる。
それは、俺が判断して決めた。
まことと、松本君が傍に居てくれたら何でも出来る。
俺はそう思っていた。


でも二人の葬儀の前に遣らなくてはいけないことがあると一馬は言い出した。


二段ベッドが二つに離され、小さな祭壇の前に置かれた。

二人の遺体はブルーシートから移動され其処に寝かされた。




 眞樹と赤坂奈津美の遺体は皆が見守る中、ケーゲー本部に作られた祭壇の前に並べられた。
望月一馬の配慮で、葬儀の前に二人の結婚式を挙げることにしたためだった。
そう……
これをどうしても遣ってあげたかったのだ。


それは身寄りのない赤坂奈津美を、眞樹と一緒の墓で葬ってやるためだった。
望月一馬はやはり眞樹の父親だったのだ。


眞樹の愛する奈津美のために……
奈津美が愛する眞樹のために……

眞樹の苦悶を取り除こうとして、一緒に死ぬことを選んだ奈津美。

その優しさへの最後のプレゼントだったのだ。


だから、二段ベッドだったんだ。
俺とまことのような愛を育んでほしいと願った一馬だったのだ。




 俺とまことが結婚式で着用したウェディングドレスとタキシード。
これが二人の死衣装だ。

それはどうしても二人の結婚式を挙げてやりたいと願った望月一馬に、まことが託した物だった。
小さい頃から一緒に育った奈津美が眞樹と天国で結ばれるように。

まことは、俺が眞樹を庇ったことで死ぬ時期を違えた二人を一緒に旅立たせてやりたかったのだ。


まことの心が通じたならば、二人はそのまま天国への新婚旅行に出発するはずだ。
俺もただそのことだけを祈っていた。
それはせめてもの罪滅ぼしだった。


その姿は、俺達のいきさつもまことの心遣いも知っている参列者全員の涙を誘った。


その後で二人の遺体がひっそりと斎場に運び出される予定だった。

火葬場は地域に一つしか無いために、メガネを着けたり外したりしながら皆変装をしていた。
それも眞樹の遺言だった。
眞樹は父である望月一馬を気遣っていたのだ。


『眞樹落ちて』
その書き込みを眞樹は待っていたのだった。


(だから眞樹は微笑めたのだ。だから今二人は穏やかな表情なのだ)

俺はそう思った。