教団には祭壇があるらしい。

そりゃそうだと思った。

望月一馬は有事対策頭脳集団の主席でありながら、牧師なのだから。
だからその前に遺体を安置するのだろうと思った。


有事対策頭脳集団は養護施設を兼ね備えた教会のような建物らしいのだ。




 でも一馬は俺の家の方角に向かった。

俺は不思議に思った。
教団の関係者ではない俺の葬儀なら判る。
でも眞樹はれっきとした一馬の後継者なのだ。


 結局二人の遺体は住み慣れたあの白い部屋の下にある建物に運ばれたのだった。


秘かに集められた関係者達。

俺とまことの結婚式に集合してくれた人達だった。


何が何だか解らすにやって来た連中の前で、やっとブルーシートが外された。


まさかの出来事に皆が嗚咽を吐いた。


「ああ、私の……」
小松成実が崩れ落ちる。

成実は日本一の頭脳をもった眞樹を誇らしく思っていたようだった。


全て人が事情を知っている。

だからやっと明るみに出せる望月眞樹と赤坂奈津美の遺体。

一馬はいの一番に、眞樹に取りすがった。

それは教団のトップから父親に戻った瞬間だった。


眞樹は苦しみ抜いて死んでいった。
それでも穏やかな顔をしていた。
それはきっと眞樹に訪れた本当の安らぎだったのかも知れない。

俺はそう思うことにした。

だから微笑み合っていたのだと思った。


これから死のうとしている人間が、あんなにも冷静でいられるなんて……
眞樹には敵わない。
俺はそう思った。


其処は眞樹がアンビエンス・エフェクトを開発したケーゲー本部だった。

驚いたことに、眞樹は其処に祭壇を用意していた。

何処までも主席に迷惑を掛けずに旅立つためだったのだ。


俺が死んだ場合を考えて教団に用意出来なかったのだ。




 ゆうに教室二個分はある白い俺のアトリエ。

その下に位置する眞樹の居住空間。

それは幾つかの部屋で仕切られていた。


俺とまことはその祭壇の前で佇んでいた。
まことは俺を心配して、片時も離れようとしなかった。


でも俺はジタバタしていた。
もう響くことのない眞樹の心の声をどうしても聞きたくて仕方なかったのだ。
でも……
出来るはずがない。