俺はやり場のない虚しさを補ってほしくて望月一馬を見つめた。

自分のことは棚に上げて、何故もっと早く来てくれなかったのか聞きたくなったからだ。
それと、眞樹や教団の他の生徒が受けた実験の場を与えた本当の目的を知りたかったからだ。


でもその前に、俺は一馬に抱き締められた。
一体何なのか?
何がどうなっているのかも解らない。

ただ一馬は俺を抱き締めて泣いていた。




 「良かった無事で……」
やっと一馬は言った。


(何処が無事なんだ? 一体何を考えているんだ?)

俺はだんだんと腹立たしくなって来た。


(もしかして、俺と眞樹を間違えているのか?)
そんなことも思いつつ、俺は続けた。




 「アンタは眞樹の親なんだろう? だったらもっと親らしくしたらどうなんだ」
俺はとうとう言っていた。


「眞樹やまことがあの幹部候補生達の餌食になったと知りながら……」
俺がそう言った途端一馬の顔色が変わった。


一馬は、眞樹が実験で動物の血を輸血されていた事実を一斎知らなかったのだ。

俺はそれが事実だと一馬の意識の中で知った。


「君は今、私の心を見ているね。その力を生かしてみないか?」

又訳の分からないことを一馬は言い出した。
そして俺に跪いて、右手を差し出した。




 俺は驚いて、反対の手を見た。
其処には古文書のような物が見てとれた。
それはあの大天使の持ち物だった。


俺はそっと一馬の額を見た。


もし一馬が大天使ガブリエルだったら、目と目の間に太陽が埋め込まれているはずだから……


其処には確かにそれがあった。
俺の目はしっかりそれを確認した。


「えっー、大天使ガブリエル!?」

俺は慌てて左脇腹に手を持って行った。


痛みは無くなっていた。
それだけではない。傷口さえも跡形も無く消え去っていたのだった。


「母に受胎告知をしたのは本物のガブリエル? だったら俺は……」


「はい、貴方様こそ、救世主です」

大天使ガブリエルは確かにそう言った。

俄には信じられないことを言った。