気が付いた時俺は、まだまことと大カンバスの上でもがいていた。

でも其処は白い部屋ではなかった。
屋上だったのだ。


何故苦しいのか判らなかった。
だって俺はまことと愛しあっているんだ。
楽しいなら解る。
燃えるようにワクワクするなら解る。
でも俺は辛いんだ。
どうしょうもなく胸が苦しいんだ。


(大天使ミカエルの剣が貫いたのか?)

俺は慌てて心臓に手を持って行った。

何気に手を見ると、赤くなっていた。


俺は出血していたのだ。
でもそれは胸ではなかった。
脇腹だった。


何故其処なのか解らない。
俺は確かに胸を刺すように要求した。
そう……
それはヴァンパイアの血を全て放出させるためだった。

もう一度脇腹に手を持っていく。
でも不思議に痛みはそれほど感じてはいなかった。


俺は我に返った。
そして周りを見回してみた。


驚いたことに其処には眞樹もいた。
彼は遠巻きに、俺のおぞましい姿を見て笑わっていた。


俺は……
俺達は、屋上に用意されていた大カンバスの上で躍らされていただけだったのかも知れない。


俺がまことの元に飛んだのではなく、まことを引き寄せたのかも知れない。


俺は忘れていた。
アンビエンス・エフェクトの実力を。
まことに狂った俺が映像の中でまことを追い掛けていた事実を。




 赤坂奈津美はずっと眞樹と一緒に屋上にいた。

愛する眞樹が、俺のせいで変わって行くのをずっと見守ってきた。
でも眞樹の今の姿は、一生を捧げても良いと感じた人ではなかった。


赤坂奈津美は眞樹の中にサタンの血を感じた。

それは、眞樹を陥れるための実験だった。

眞樹はあの若い幹部候補生達の陰謀によって、その血を汚されていたのだった。


眞樹のいる有事対策頭脳集団本部に、全国から優秀な子供達が集合する。
これから日本を背負って立つ人材作り。
それが其処の課題だった。


実験施設も自由に使わせてもらえる。
彼等は其処で動物実験を繰り返していたのだった。


そんな時、目障りな眞樹が怪我をした。
それは、トマトジュースへの血液投入後だった。

彼等にとっては降って湧いたような幸運だった。
輸血に見せかけて、動物の血を眞樹の血管から投入しようと思っていたからだった。