『俺をヴァンパイアにさせるためにトマトジュースの中に血液を入れたのはお前か?』


『流石だ、良く解ったなその頭で』


『言ってる意味が違うだろ』


『合ってるよ。やっと解ったんだと思ってな』


『何処まで俺を馬鹿にする気だ』


『だって元々馬鹿だったろう? お前のことだから、母親を疑ったはずだ。あの代理母をな』


『…………』


『図星か?』


『何故だ!? お袋を取られなくするためか?』


『いやお袋は関係ない。親父だよ望月一馬』


『望月一馬!?』


『そうだ、俺はただ愛されたかっただけなんだ』

それは眞樹の本音だった。




 『望月一馬はお前を愛してくれなかったのか?』


『いや違う……』


『図星か?』

今度は俺が言ってやった。


『愛してくれたよ!!』

遂に眞樹は応えてくれた。

俺は眞樹の心理が聞きたかったのだ。


俺は眞樹の叫びで、温かい親子関係を想像していた。




 望月一馬は、有事対策頭脳集団の主席であっても、眞樹を蔑ろにしたことはなかった。


でも眞樹も俺同様、もっと傍にいたいと願った。
そのためにがり勉したのだ。
父親に誉められたいから、傍にいて頭を撫でられたいからトップを目指したのだ。




 『望月一馬を独り占めしたいから、俺を貶めようとしたのか?』


『ああそうだよ。
お前を見たら、きっと親父は興味を持つ。だからその前に抹殺しようとしたんだよ』


それは眞樹の歪んだ愛だった。

でもどうして、どうやって血液入りジュースを作ったのか?

俺の存在を何時知ったのか?
解らないことばかりだった。


俺はもう一度眞樹の中に入ろうと思った。




 『あの血は誰の血だ?」


『あれは俺の血だ』


『えっ!? 嘘ー』


俺は眞樹の体を見た。
でも何処にも、切り傷が無い。
俺は首を傾げた。


『そんなに見たいか俺の傷口を』


俺は何も言えなかった。
首を縦にも横にも出来ずにいた。


すると眞樹は自分の皮膚を捲った。


その皮膚は人工で作られた物だったのだ。


(うっ!!)


俺は思わず息を詰まらせた。
その皮膚の下は、数限りないリストカットの後だったのだ。


眞樹はそれだけ苦しんでいたのだった。