「そんな……」


はっきりと、心が折れるのを感じた。


馬鹿な。プロレスラーってのは化け物か?


もう、戦えない。


俺は絶望した。


そのとき、田山が口を開いた。
「俺の……、負けだ……」


「何?」
いぶかしげな顔をする俺に向かって、田山は切れ切れに呟いた。


「俺は、……もうすぐぶっ倒れる。おまえの……勝ちだ。…………その前に、おまえにふたつ……言っておきたいことがある……」


「……なんだ?」


「俺は、……おまえの空手に敗れた……。しかし、それは……俺が弱かっただけのことだ……。決して……プロレスが空手に負けたわけじゃない……。分かるな?」


「ああ、空手がプロレスより上だなんてことは、言わねえよ」


「……よし。それと、……もうひとつ……」


田山の体が、前のめりに倒れた。俺はあわててそれを支えた。


「大丈夫か?」


「……ああ、すまねえな。…………それと、もうひとつ」


「何だ?」


少し沈黙してから、田山は言った。


「……晶を、頼む」


「え?」


「…………晶を、……泣かせないでやってくれ……。バカだけど……いい女なんだ……。…………頼む」


俺は、田山の目を見た。


そして、分かった。


激しく戦った者同士だからこそ、通じるものがあった。


こいつも、南斗さんのことを……。



「分かった。まかせておけ」


俺は力強く言った。


「…………ありがとよ」


そう言い残して、田山は目をつぶり、静かに気を失った。










試合時間三十二分。





俺は勝った。