「立ってっ!健介君っ!!」
南斗さんが、泣きながら叫んだ。
誰だ?彼女を泣かしたヤツは?
俺か?そうだ。俺が負けようとしているから、南斗さんは泣いているんだ。南斗さんは、俺なんかのために、涙を流してくれているんだ。
「7っ!8っ!……」
意識がはっきりとしてきた。審判のカウントもはっきりと聞こえる。
南斗さんを泣かせてはいけない。南斗さんは、笑っている顔が、一番似合う。一番素敵なんだ。彼女の涙を止めなければいけない。それにはどうすればいいか。
「……勝つしかねえな」
俺は、起きあがった。全身に激痛が走る。痛めているのは足の骨だけではない。
「だああああああああっ!!」
しかし、俺は、その激痛を力に変えた。
そして、勢いよく立ちあがった。
「9っ!……………」
審判が、驚きの表情を浮かべてカウントを止めた。
観客のざわめきが聞こえた。
田山が、信じられないといった表情でこちらを見ていた。
リングサイドで、南斗さんは呆然としながら俺を見上げていた。
その目から流れる涙は、止まっていた。
「…………よし」
俺は、小さく笑みを浮かべ、拳を握りしめた。