俺は田山に聞いた。
「だが、それでも、おまえは俺の攻撃を受けていたはずだ。それなのに、ダメージがないなんて……」
「ノーダメージだったってわけじゃあないさ。それなりに痛かった。しかし、倒されるほどじゃあない」
「そんな……」


「プロレスラーの肉体をなめるなよ」田山の目が鋭くなった。「闘いを見せるのが、格闘技なら、闘いを魅せるのがプロレスだ。プロレスラーは、試合を面白くするために、あえて相手の技を受けきる。二百キロの巨漢レスラーにボディプレスを受けることもある。デスマッチならば、釘バットで殴られることも、電流爆破でぶっ飛ばされることもある。そんな試合を耐え抜くために、俺達レスラーは、肉体による「受け」の練習を日々繰り返しているんだ。とくに俺は、今日の試合のために、あのアトミック南斗の打撃を何度も受けてきた」


俺は、呆然とした。


相手の技を受けきるだと?
空手には、全く存在しない発想だった。


「代々木健介。おまえの敗因はたったひとつだ」田山はかまえた。「おまえは、プロレスの表現力をなめた」



ラリアットがきた。


足の骨の折れた俺には、よけられない。


田山の上腕が勢いよく、喉に食いこんだ。



俺は、吹っ飛んだ。



また後頭部を強打し、俺の意識は、すう……と遠のいていった。