田山が見せた構え。


それは、空手の構えだった。


田山が答えた。
「相手がタンゴを踊るのなら、タンゴを、ジルバを踊るのなら、ジルバを踊ってみせる。それがプロレスラーだ」
「…………?」
「とある昔のプロレスラーの言葉さ」
「何が言いたい?」
「見ての通りさ。空手でやりあうんだよ」


頭に血が登りそうになるのを抑えて、俺は静かに聞いた。
「……なめてんのか?」
「本気さ」田山は笑った。「なんでもできるのがプロレスラーだ」


ばちぃっ
ちっ


田山が言い終わる前に、俺は上段蹴りを放った。田山は腕でそれを防いだ。カウンターで田山の正拳突きが飛んできた。


いい突きだった。


俺はなんとかかわしたが、田山の拳が鼻をかすめてしまった。


あわてて下がり、距離をとった。
鼻血が流れだして、口に入った。
今の攻撃を、もし顎に喰らっていれば、試合は終わっていたかもしれない。


「……上等だ」
俺は、鼻血を手の甲で乱暴にぬぐうと、笑みを浮かべて構えた。