容赦ないわね。


私は心の中で苦笑しました。


蹴りの威力は、なかなかのものでしたが、今まで何千発と喰らってきた父の打撃に
比べれば、大したことはありません。
いや、痛いことは痛いのですが。


踵落としがきました。
これは喰らわないほうがいかなと思い、後ろにさがろうとしました。
しかしコーナーに戻る間もなく、角田の下段蹴りが飛んできました。
ひとつひとつの動きの素早さに、驚きました。


距離を取ろうと下がっても、走ってきて迫ってきます。一気にケリをつけるつもりのようです。


いいわよ。受けてやろうじゃない。


私はロープに背をあずけ、はねかえる反動、勢いで体当たりをぶちかましました。
角田の小柄な体はあっさり吹っ飛び、倒れました。
あわてて立ち上がろうと膝をついた角田の顔面に向かって、低空ドロップキックを放ちました。


かわされました。


角田は転がりながら距離を取り、立ち上がりました。


私もすぐに立ちます。


そのまま数秒、にらみあいが続きます。


角田が、かわいらしい笑顔で言いました。
「汚い顔ね。口のまわりにビチクソぶちまけたみたい」
私は笑い返しました。口に鼻血が入ります。
「教えてあげる。いい女ってのはね。血まみれでも美しいものなのよ。あなたこそ、せっかく綺麗な顔してるのに、汚いことするのね」
「ごめんなさあい」甘えた声。「わたしがかわいいのは、健介お兄ちゃんの前だけよ」
「健介君のこと好きなの?」
「てめえ何名前で呼んでんだコラァっ!」
「なるほどね。そういうこと」
彼女が私の対戦相手になった理由が分かりました。
この試合に勝って、私と健介君の仲を引き裂くつもりなのでしょう。
「負けられないわね」
私は両手を広げて構えました。
「ほざくなよ。このデカ乳がぁっ!」
角田は飛びかかってきました。


そこからは、もう、どつき合いでした。


角田は、正拳突き、蹴り、膝蹴り、飛び蹴り、回し蹴りといった足技中心の連続技で攻めてきました。


わたしはノーガードでそれを全て受けきり、掌底、水平チョップ、エルボー、ラリアットといった打撃を返していきました。


どごっ
どごっ
ばしっ
びしっ
ぼごっ


互いの攻撃が肌を打つ音が、会場に響きます。
角田も私も、顔が腫れ、青痣が浮いていました。
激しく動き続けたため、二人とも、だいぶ息があがっています。体に乳酸がたまっているのが分かります。


たぶん次が最後の攻防になるでしょう。