「ちょっと、南斗さん!」
おれがあわてて近寄ろうとすると、アトミック南斗がおれの前に立った。
「おうおうおう!安心しな小僧!晶は強いぜ!そう簡単に負けはしねえよ!」
「でも……」
「大丈夫だって言ってんだろが!それよりもだ!おうおうおう、小僧。二人の未来を決める大事な戦いをよ、女のほうにだけやらせるっていうのは、男としてちょっと格好悪くねえか?」
アトミック南斗は、にやにやと笑いながら言った。
俺は眉間にしわをよせた。
「何が言いたいんですか?」
「簡単なことよ!おめえも試合をしてみろって言ってんだ!うちのレスラーの練習生によ、おめえと同じ年齢のイキのいいヤツがいるんだけどよ。小僧もそいつと試合をしろよ!勝てばおれも晶との交際を認めてやるぜ!どうだ!?」
アトミック南斗は、おれの肩をバンバンと叩いた。


おれは考えた。
結論は、すぐに出た。
「分かりました。やります」
理由は単純だった。
おれは戦いが好きなのだ。
南斗さんとの修行も楽しいが、やはり彼女は女性なので、こちらから攻撃を仕掛けることはなかった。主に彼女との技を防御する練習を続けることになった。
それはそれでいい修行ではあるのだが、攻撃できないというのは、やはり物足りなかった。
試合なら、相手が男なら、堂々と攻撃できる。遠慮なく、ぶん殴れる。躊躇なく、蹴りをぶちこめる。
そういうのが好きだから、おれは空手をやっているのだ。


しかし、それ以上に、南斗さんと離れたくないという気持ちがあった。この感情に、おれは困惑していた。親父に、彼女との修行を反対された瞬間、自分でも驚くほどの絶望が襲った。この感覚は一体何なのか?


「よおおおし!決まりだ!」アトミック南斗が、両腕を広げて叫んだ。「おうおうおう!面白くなってきやがったじゃねえか!じゃあ、来週の日曜日の夕方六時!試合の場所はうちのプロレス会場のリングでどうだ!?」
「それでいい」
親父は答えた。俺も南斗さんもうなずいた。
「よしよしよおおおし!では試合は来週だ!晶も小僧も、しっかりと調整しておけよ!がっはっはっはっはっはっはっ!!」
豪快な笑い声が、青空に響きわたった。