ドゴォッ


おれは目を見開いた。


アトミック南斗も、口をぽかんと開けている。


南斗さんが、後ろから親父に向かってハイキックを放ったのだ。


親父は即座に振り向き、それをガードしていた。


蹴りを下ろすと、南斗さんは構えをとりながら言った。
「その言葉だけは許せない」声がふるえていた。「プロレスは、八百長。その誤解が、プロレスの世界をどれだけ貶めてきたか!どれだけのレスラーが!どれだけの団体が!その誤解に苦しみ、消えていったことか!プロレスは、確かに本物の戦いじゃないわ。プロレスはショーよ。でも、八百長じゃない!八百長は手抜きだけど、プロレスは手抜きじゃない!手を抜いてできるような生ぬるいスポーツじゃない!それなのに、世間では、プロレスは八百長だってイメージが、まだはびこっていて……。許せない。わたしは、その言葉だけは絶対に許せない!!」


親父は、ガードした腕を見た。手首から下の部分、蹴りを受けた所が、赤色に腫れていた。
「いい蹴りだな」
親父は、少しの間何かを考える表情をしたあと、南斗さんに聞いた。
「南斗……晶さんといったかな。もしよかったら、うちの道場の人間と、試合をしてみないか?」


「え?」
突然の申し出に、南斗さんの顔にとまどいが浮かぶ。


「もしかしたら、わたしは君の言う通り、プロレスというものを誤解していたのかもしれない。君の実力を、確かめてみたいんだ。どうだろう?うちの道場生で、君と同じくらいの世代の女子に強い選手がいるんだが、彼女と 戦ってみないか?もし勝てば、健介との付き合い(修行)を認めてあげよう」
「……本当ですか?」
南斗さんの目が輝きだした。
「あくまで勝てばの話だがな。君の技が、プロレスとはいえ、本物の戦いに通じるものであれば、二人の付き合い(修行)に反対はしない」
「やります」
即答だった。