(代々木健介)

「健介!カモンッ!」
突然、後ろから野太い男の声がした。


おどろいて振り向くと、南斗さんが仰向けに寝転がって手招きしていた。どうやら彼女の声だったようだ。一体どういう声帯をしているのか。


「け、健介君、きて」
なぜか南斗さんはあわてて言い直した。
俺は少し考え、すぐに彼女の意図を理解した。
そうか、寝技の練習か。


うちの道場の稽古でも、柔術の練習を取りいれてはいるが、そこまで本腰をいれていない。ここはプロレスラーである彼女に教わってみるのもいいだろう。


ちなみに、いまなぜか南斗さんの胸の谷間と太股が露出しているが、いまの俺には何も感じない。
昨晩、正拳突きの特訓を六時間行ったあと、水ゴリと座禅を、朝になるまで繰り返し続け、頭の中から煩悩を追い出したのだ。だから、何も感じない。


理解した俺は、うなずいてみせた。
南斗さんはにっこりと笑いながらうなずきかえしてくれた。
「じゃあ、行くよ」
「うん、きて……」