「待ちやがれ〜!!
…クソッなんて速い奴だ。」
「オッサンが遅いだけだって。
じゃ、これは貰ってくぜ〜。
ごっそーサン♪」
少年はまた盗みをはたらいていた。
もはや少年を捕まえられる人はいないだろう。
少年はそれほどまでに速かった。

追手もうまくまき、パンを抱いて帰る途中、大きな商人の行列とすれ違った。
(やけにでかい行列だな…?)
少年が見ていると、行列の中ほどに商人達にまぎれて1人、少女がいた。
少女は透きとおるような白い肌で、髪は綺麗な空色、そして髪より少し濃い青の瞳をしていた。
少年はその少女の美しさに目を奪われ、立ち尽くした。
少女は俯いていたが、美しいその瞳から、涙が溢れそうなのを必死に堪えているのだけは、少年にもわかった。
(どこに行くんだ?)
少年はじっと行列を、いや少女を見つめていた。
少女はカルマの坂の上に建つ金持ちの家へと消えていった。

少女は遠い町から売られてきたのだろう。
少年にもそのことがわかったようだった。
「うわぁぁぁぁ……!!」
少年は叫びながらひたすら走った。
「ちくしょう…。ちくしょう…!」
少年は少女の、感情を押し殺し、必死に涙を堪えていたあの表情を思い出していた。
(あの子のあの美しい顔に、清らかな身体に、穢れた手が触れているのか!)
少年は空腹すら忘れていた。
ただあの子のことを想うと、胸が痛かった。
自分の無力さを痛感し、気がつくと少年は、涙を流していた。