一瞬イラッとしたが、鷹槻の差し金だったとしても、

 あいつはちょっと様子を見て来いとか言うくらいで、

 泊まれなんて口が裂けても言わない。

 だとしたら、あそこで寝てたのはコイツの意志だ。

 美希の顔を目指した指先が、肌に届きそうになる。

 パシンッ!


 「やっ! ちょっと何考えてんのっ」


 額に触れようとした手を叩き落とされた。


 「熱あんじゃねぇかと思ったんだよ!」


 人が心配してやってんのに何だこの態度は。

 「ないよ!」

 「あぁそう? じゃあとっとと帰れ」

 「っ! それが一晩中つきっきりでいてあげた私に言う言葉っ!?」

 「頼んでねぇし」


 マジでずっとここにいたのかって思ったら、何つうか、ビビッた。 

 けど、口から出たのは感情と全くリンクしない言葉。


 「信じらんない」

 「知らねぇよ。記憶ねぇんだから」


 思わず弁解に走った自分にビックリだ。

 別にいいだろ、美希にどう思われようと。


 「全然覚えてないの?」

 「ソファで飲んでたのは覚えてる」

 「あんた、入り口の近くで倒れてたんだよ?」

 「マッマジ……」


 やっちまったな。

 それで? 美希がここまで運んでくれたのか。


 「悪かったな」

 「ホントだよ。世話が焼けるんだから。鷹つ」

 「言うなっ!」


 頭で何か考える前に声が飛んでいた。


 「金輪際その名前は聞きたくない」


 昇華したはずの怒りが再燃して理性を焼き尽くすのは時間の問題とさえ思える。


 「何があったの?」

 「思い出したくねぇ」

 「……ごめん」


 俺から目をそらした美希に何て言葉を掛けたらいいのか分からなくて、

 自分が情けなくなる。

 美希には完全に弱味を握られてるし、今も立場的には俺の方が下だ。


 「お前家帰る?」

 「うん」


 目をそらしたままの、ギクシャクした会話。

 
 『……ごめん』


 のあと、少しの間だったが黙り込んでたのは美希もだから、

 気まずさを感じてたのは俺だけじゃない。