「迎えに行かないから、一人で登校しろ」


 梨乃にそう告げて電話を終えると、俺は何食わぬ顔で

 鷹槻に夢花だけを迎えに行くように言った。


 「何かございましたか?」


 鷹槻は疑問形で喋ったが、顔には


 “何かあればお力になりますよ”


 と書いてある。

 余計なお世話だ。


 「何もねぇよ」

 「いつ何時も、彩並グループの看板を背負っていらっしゃることを、
 お忘れにならないようにお願いいたします」


 全部見透かしてんじゃねぇか!

 言いたいことがあんだったら言いやがれ!!

 と怒鳴りたいが、ここでそれをやったらお節介執事は

 余計な口を出してくるに違いない。

 そして絶対こう言う。


 「言いたいことがあれば言いやがれ!!
 とおっしゃったのは寿様ではありませんか」


 用意に想像できる鷹槻の非対称な微笑。

 だから俺は何も言わずに車に乗った。





 夢花の家の前に到着すると、入って来た夢花は車内を

 グルッと見て、俺しかいないことを確認したように見えた。



 おかしいだろ?



 梨乃が休むって教えてきたのは夢花なんだから、

 俺以外の人間がこの中にいるわけがない。


 「どうした?」

 「何でもないよ」


 車の一番奥の席に座るのは梨乃。

 次に俺で夢花。

 俺を中心に二人が別れて座るのが常だったが、夢花は今日、

 奥の席に腰を下ろして腕に絡みついてきた。

 瞬間、嫌悪を感じる。