月と太陽

アパートに到着し、階段を上がる。

わたしたちの話は続いた。

「実はね、一時期わたしも日下家にお世話になってたのよ」

梨子の言う「お世話になってた」とは、きっと入院の意味だろう。

「小さい頃からよく過呼吸になることがあってね。14の時、バスの中で突然過呼吸になって…、それを助けてくれたのがタケルだったの」

2階に上り切ったところで梨子はフフッと笑って見せた。

話が暗い方向へいかないよう、気を使っているように感じた。

わたしはドアの鍵を開け、ドアノブを引く。

隙間から冷たい空気が流れ出てくるのを感じた。

それが、この家には人の温かさがないことを示しているように思えた。