月と太陽

ずっと「退院」と告げられないと思っていたわけではない。

けれど、この暮らしがわたしにとって、あまりにも居心地が良く、当たり前になっていた。

一番の恐怖は、あの家に戻ること。

あの家に戻って、また元のわたしに戻ったら、どうしよう。

あんな生きた心地のしないわたしに戻るなんて嫌だ。

泣き続けるわたしの頭をゆっくりと撫でながら、タケルは「大丈夫」と何度も繰り返した。


わたしが日下家に居られるのは、3月いっぱいまでとなった。

あと1ヶ月ちょっとだ。

退院を告げたお父さんのことは悪く思っていない。

治ったら、退院する。

当然のことだ。

また症状が出たと言えば、あの家に帰らなくて済むかもしれない、なんて考えたりもしたが、そんなことを考える自分が醜く感じて嫌になった。