数分間は一人で酒を煽る。


周りは皆、同じ欲を満たす目的で集まった人間ばかり。



今夜は誰と過ごそうかと、視線を張り巡らせている。


酒を一杯呑み終えたところで、一人の男が近付いてきた。



「今夜もご一緒願えませんか?」



そう訊いてくる男の顔には見覚えがあった。


名前を速水 皇(ハヤミ コウ)と言う。



この男は、勤めている会社の僕の直属の部下だ。



「まだ相手を見つけていないんでしょう?」



ここ最近、このバーに突如として現れ、何の躊躇いもなく僕を誘った。


「そろそろ飽きないか?毎晩毎晩僕ばかりを誘って…」
「飽きませんね。矢坂(ヤザカ)さんは、毎晩違う顔を見せるから。」
「先輩って呼べよ。」
「会社では呼びますよ。でも、今は完全なプライベートだ。」


ニッと口角をあげたその顔は、見るものを魅了する魅力があった。



初めての晩、僕はこの笑みに魅了され、誘いに乗ったのだ。