「……しょうがないわね。これで分かる?」
そう言って、ゆっくりと音楽室の奥まで歩いてきた。
入るなって言ってんだろ、なんて将人の声は、届いてもいないように。
そしてグランドピアノの前まで来て、静かに腰を降ろした。
埃を軽く払い、鍵盤の上に手を置く。
「ピアノ……?
お前、ピアノ弾くのか……?」
そんな呟きを一切スルーして、ピアノの音を出す。
あのコンサートで弾いていた曲だ。
こんな古いピアノから、こんな綺麗な音が出るなんて。
繊細、なんて言葉じゃ表しきれないほど危ういもの。
1ミリもない飴細工のよう。
第三音楽室は、ピアノの音の他に何も音がしなかった。


