「……き……さん」

愛裕の寝言が聞こえてきた。
何て言ったのだろうか?
琥珀は息を潜めて聞いた。そうしたことに後悔すると知らずに……。

「……さん……息吹さん…」

琥珀は固まった。
愛裕が、琥珀の知らない人の名前を呼んだいたからだ。
頭が真っ白になる。怒りにも焦りにも似た感情が琥珀のなかで暴れる。

「だれだ……」

琥珀の声は震えていた。
何かを無くした子供のように、迷子になった子供のように……

「……誰なんだよ…息吹って……」

琥珀はベッドの脇に崩れるように座る。
そして前髪にくしゃっと手を置いてうつむいている。どんな表情なのかは分からない。

琥珀の心は前みたく乱れていた。あのときより酷いかもしれない。
しかし、あのときみたいに魔力が暴走することは絶対にない。
彼が思っている以上に愛裕を傷つけたくないという思いが強いからだ。
それでも………