「だ、れだ…!」

「きゃっ…」

突如声が聞こえ、 思わず小さな悲鳴を上げる。

「その声っ…!」

冷静に声の主を判断した愛裕は、 たっと駆け出す。
ほんの十数メートルしたところに、人影を見つける。
駆け寄って、
顔を同じ高さまで持っていく。

「琥珀様っ」

「…愛裕、か。」

「はい、愛裕です。
どうなさったんですか?
こんな夜中に……」

「あ、ああ、ちょっと立ちくらみがしてな……」

ぱっと辺りを見渡すと、 数メートル先に琥珀の部屋が見える。
さっき聞こえた物音は、琥珀が部屋の扉を閉めたとき誤って 大きな音を出してしまったのだった。

「大丈夫ですか?
お部屋までご一緒します」

「いや、いい。だいじょう、ぶだ」

「大丈夫じゃありませんっ」

琥珀の顔色を、声色を伺って、愛裕が言った。
自分で大丈夫かどうか聞いたくせに、大丈夫じゃ ないと否定するのはおかしいかもしれないと思ったが、 気がついたら口にしていた。
いつもより荒い息づかい、少し苦しそうな表情、冷静さを欠いた声。

「……わかった。
じゃあ、肩を貸してくれ」

「よろこんで」

琥珀の腕を肩に回し、 ぐっと力を込めて立ち上がった。