自宅へ続く国道沿いの歩道を歩く、あたし・高良唯とユーレイ・神谷雫。





「でさ、そろそろ教えてくれないかな」

「え、何を?」





会話が途切れたのをきっかけに、あたしは雫に尋ねた。


一番気になっていたコト。





「なんであたしに取り憑いてるの?」

「それ、聞きたい?」





「当たり前でしょ。あと、なんであたしには雫が見えるの?」

「あーね」







ふたつの疑問は、あたしと同じ境遇になれば、およそ全ての人間が感じるであろう素朴なクエスチョン。





ユーレイが、特定の人物に取り憑く理由。

そして、霊感皆無のあたしが突然ユーレイを見ることが出来るようになった理由。





「説明しろと言われたら、出来ないこともないんだけど」

「その歯切れの悪い返答はなんなの」





こちらを向いて苦笑した雫。

睨むあたし。





「唯さん、あれじゃないですか」

「どれよ」





「おバカさん」






ビュッ!!!






あたしの通学カバンが、半透明の雫の身体を勢いよくすり抜けた。





「クソガキ!塩まくぞ!」

「どうぞお好きに、プリンセス。そんなんでユーレイ死んだりしないんで」





あたしが怒ると雫はいつもこの調子。
ニコリと笑って、小生意気に言い返してくる。





「あんたの夕飯はごま塩1グラムにたった今決定した」

「スミマセンデシタ」





ご飯関係のプレッシャーをかけると、すぐ謝ってくるのもいつも通り。





「とまぁ、冗談はさておいて」





顔を上げた雫は、またもやニコリと笑って、重力を完全に無視してふわりと宙を舞った。





「説明が難しいのはホントの話。だから、基礎知識のない唯に分かるように、簡潔に説明するとしたら、こんな感じ」





あたしがちょっと見上げたくらいの位置に浮かんだお調子者のユーレイは、右手の人差し指をピンと立てた。





「俺が唯に取り憑いた理由は、偶然。唯に俺が見える理由は、相性」

「ワケ分かんない」






「ワケ分かんなくても、そうなんだから仕方ない。またちょっとずつ説明するさ。すぐに唯にも分かる。ユーレイは、“オカルト”じゃなくて、“SF”だってこと」






あたしの頭上で、雫は頭の後ろで両手を組むと、昼寝でもするような体勢で仰向けになった。






「続きは家に帰ってから。夕飯食べながら話すよ」

「あんたはごま塩だけどね」






「うぇっ!?ウソでしょ!冗談じゃん、本気にすんなよ!」

「家主をバカにした罰。キレイな土下座が出来たら許してあげる」







「エンマのおっさんよりタチ悪いな、オマエ!」

「あ、エンマはいるんだ…」







ユーレイの世界、「休憩所」。






雫の素性はまだまだ謎が多いけど、元はといえば同じ人間。





雫の話に、興味は尽きない。





ユーレイと会談するのも、悪くない。






不安と期待の両方を感じながらも、あたしは足取り軽く、家路を急いだ。