「僕、ちょっとエンマ先生のトコ行ってくるね。バイトはやるってことでオーケー?」

「選択肢ないんでしょ。やりますよ、報酬一括で払ってもらえるよう言っといてもらえます?」

「言うだけ言ってみるよ」

「お願いしまぁす」






サクヤさんが部屋を出ていったのを確認して、再び辞令書に目を向ける。






「あー。高良って、そういうことか」

「あァ。俺の娘」






「娘だけ助かったん?どうやって暮らしてるワケ?」

「今は一人暮らしをしてるらしい」





「ほぉ。17で?そりゃすごい」

「俺が頼める立場じゃないかもしれないが、義母(カア)さんが復帰するまでの間、唯を護ってやって欲しい」






「真人の娘で、詩織の娘で、静枝ばあちゃんの孫ってワケね。責任重大だなァ…」

「頼む、雫。大事なひとり娘なんだ」





少し考えて、真人の不安そうな顔を見て。俺は観念して辞令書をくしゃりとポケットにしまった。






「ま、仮に決定事項じゃなくても、真人の頼みなら断る道理はないよ。親友だしな」

「雫!」





「ただ、なんで今まで顔出さなかったワケ?7年前だろ、お前らが死んだの」

「命を救ってもらった手前、来にくかったんだ。ごめん」






「はぁ。まァいいさ。時効だ、時効。酒あるぞ、飲もう」

「いいのか?未成年だろ」

「お前と同い年だ、ボケ」





正直、少しイヤになっていた守護霊の仕事。





だが、真人と詩織の娘だ。





ビシッと護って、スパッと辞めよう。






そう心に決めて、俺はかつての親友とグラスを交わした。






「そーいやさ、雫」

「なんだよ」








「言ってなかったよな。ありがとな、助けてくれて」

「…ハハ。バーカ」

fin.