「シズクぅー?」


雑誌をめくる手を止めて、呼び声に顔を向けた。




「なんすかサクヤさん」

「バイトやんない?」





「は?」

「バイトだよ、守護霊のバイト」






同居人のサクヤさんが、にこにこしながら1枚の紙を持って部屋に入ってきた。






「えぇ~。イヤっすよ、忙しいんです」

「マンガ雑誌見ながら言うことではないよね、それ」





「まだ案件六つも残ってるんですよ?浮遊霊集めながら守護霊やるなんて聞いたことないし」

「静枝さん、ぎっくり腰なんだって」

「静枝って、あの静枝ばあちゃん?」

「そう。『上位ランカー』の」





静枝という名前を聞いて、嫌な予感はした。





「静枝さんの穴を埋めれるユーレイでヒマなのって、シズクだけだよね」

「だからヒマじゃないんですって!」





「案件は僕がソロで受け持つことになったから。ま、ヤバそうだったら呼ぶけどね。エンマ先生の直々のご命令なので、実は拒否権などありません」

「根回し済んでるなら先に言って下さいよ…了解です、了解!」





だらだらと起き上がり、サクヤさんから辞令書を受け取る。






「ま、依頼者の希望でもあるから張り切ってね」

「依頼者って誰すか。俺知ってる人?」






聞きながら、辞令書に目を通す。
憑き主の欄には「高良唯(タカラ ユイ)、17歳、女」と記載があった。
高良…ね。






「俺だよ、雫」





辞令書から目を離して顔を上げると、サクヤさんの後ろに、30代のヒトのよさそうな男が立っていた。






「よ。久しぶり、になるのかな?」

「…マサト?」