微かな温かさと、ささやかな圧力が、あたしの身体全体を包み込んだ。





自分の頬と、雫の頬がふにっと触れ合う。





顔がじんわりと熱くなっていく。





「俺ね、友達を助けて、トラックに轢かれて、死んだんだ」

「……えっ」






耳元で、静かに雫が言葉を発した。






「そいつと、もうひとり女の子。ならんで歩いてた。その子のコトが好きでさ、俺」





懐かしむように、自分が死んだ話をゆっくりとした口調で語る。





「でかい音。クラクションかな、トラックの。気が付いたら飛び出してて、ふたりを突き飛ばしてさ。そのまま死んじゃった」





雫は「ハハ」と笑って、話を続ける。






「母さんと父さんには、すげぇツライ思いさせたなぁって思ってさ。休憩所に行ってからしばらくして、許可もらって様子を見に行ってみたんだよな。そしたらさ、どっちも俺のこと褒めてんの。同僚とか、近所のヒトとかに、自慢気に語ってんのさ。『ウチの息子は、人助けが趣味みたいなヤツで、命を懸ける場面を間違わなかった。神谷家の誇りだ』って。大袈裟だろ?」






話を聞いているウチにまた一粒、涙が流れた。





「ちょ、泣くなよ」

「…だって」






雫のご両親のコトを思うと、胸が張り裂けそうになる。自分の子供をこんな年で亡くしてしまって、でも、それを誇りに思う、と。受け入れて、ちゃんと前に進んでいる。






「それ見ててさ。『守護霊やってみよう』って思ったんだよね。『人助けが趣味みたいな神谷家の長男は、死んでからもちゃんと人助けをしています!』って感じでさ。母さんや父さんがこっちに来たときに、胸張れるように。まぁ、守護霊は偶然適性があっただけなんだけど」

「…偉いね、雫って」






あたしが思ったままの感想をこぼすと、今度はバツが悪そうに「あはは…」と笑う雫。







「いや、それがそうでもなくてさ。始めてみたは良いけど、守護霊のバイトって、あんまり達成感とかないなーって思ってた。正直ね」

「そうなの?」






「バイトが終われば休憩所のみんなは『お疲れ』って声をかけてくれる。でも、憑き主には、俺の姿は見えないし、声も聞こえない。生死を分ける大ピンチを必死こいて救っても、憑き主は俺には気付かない。ホントのホントに凶悪な地縛霊を、ボロボロになって浄化しても、憑き主は知らん顔で、瀕死の俺を踏み越えて帰宅する」







雫の身体の温かさを感じながら、話に黙って耳を傾ける。






「もちろん、そういう仕事だからそういうもんだと思ってやってる。それに特に不満はないんだけど、やっぱり『なんかなぁ』って思いながら守護霊やってたのは確かなんだよね。でも、そこに現れたのが、唯なのさ」

「…えっ」






ぎゅっと、あたしを包む力がにわかに強くなる。