「いやぁ、2週間って言っても、ばぁちゃんももうちょっと休んでりゃいいのになぁ。普通退院したら自宅で安静だろうに」

「…待ってよ」






「そりゃあ、孫が心配なのは分かるぜ?なにせ俺みたいな若造が嫁入り前の女の子の守護霊やるってんだから。でもそりゃ依頼なんだから仕方ないだろって」

「雫!」






思わず、大声が出た。





饒舌にしゃべっていた雫が、うっと押し黙る。






「…隠してたワケじゃないぞ、俺もさっきの連絡で聞いたんだ」

「家でご飯食べる時間もないの…?」






こんな時に、そんなコトしか言えないのか。自分のバカさ加減に、いい加減嫌気が差す。






「そうしたいのは山々なんだけど…ハハハ」

「……」






分かっている。






雫の守護霊のバイトが、期限つきなのは重々承知のはずだった。






それに、雫が消えてしまうワケじゃない。これがさっきまでの状況との大きな違い。消えて欲しくないと願ったのは本心で、それは誰にも文句を言わせない。






雫は、バイトの期間が終わって、休憩所に帰る。帰らないでと駄々をこねるのは、ただあたしのワガママでしかなくて。






そっちが普通で、今雫が見えているこの状況こそが、どう考えたって不自然な事態なんだ。






だから、雫が帰らなきゃいけないなら、それは笑って送り出すべきなんだ。






そんなこと、分かってる。






「そんなコト、分かってるよ…」





涙が、ぽろぽろと零れてくる。






「分かってる…」





拭いても、拭いても、止まらない。






「なんにも…あたし、なんにも雫にしてあげれてない」






何度だって言える。






「雫っ…」






涙があふれて、声にならない。心の中で、雫を呼ぶ。






“雫、好きなの─雫っ”






あたしの身体をふわりと、恐る恐る、控えめに、優しげに、雫が抱き締めた。