雫の身体を叩き疲れて、すこし間が空いた。





「……雫」






雫の顔を見上げて口を開けた瞬間、雫はあたしの口に自分の右手の人差し指をぴとっとくっつけた。






「ダメ。謝っちゃダメ」






雫には、あたしの思うところがバレていたみたいだった。





「俺は唯の守護霊なんだ。だから助けて当然。エネルギー切れは焦って力の使い方と配分を間違ったせいで、俺のヘマ。なのに、憑き主の唯に『あたしのせいだ』って思わせてる」





雫はそこまで一気に言い切って、あたしの口から指を離したあと、目を伏せた。






「だから、ごめん」

「焦らせたのは、あたしのせいじゃん」





「普通は焦っちゃダメなの」

「『上位らんかぁ』だから?」






「そう、『上位ランカー』…って、バカにしてるだろ」

「あはは、バレたか」






笑い合って、また少し間が空く。





「……」

「……」





……急に恥ずかしくなって、どちらからともなく触れあっていた身体を離す。






「あの、さ。唯」





雫が口を開く。





同時に、さっきの自分のセリフがリフレインした。





“そばにいて─好きなの、雫”





…みるみる自分の顔が熱くなっていくのが分かった。





「あ、あー、その。ごめん、変なコト言っちゃって」

「あ、あ。イヤ、全然」





「ち、違うの!あー、イヤ、違うくはなくて、その。あたし必死で…あのね、」

「イヤイヤ!そりゃあそうだよな、俺もなんかさ、唯は、アレだよな…勢いとか、そんなんがさ、アレなんだよなって、」





「い、勢いとかじゃなくて!なんか咄嗟だったって言うか、その…雫が消えちゃうってなって!嘘とかじゃなくて、でも、好きっていうのはそういうのとは違って!あ!そうじゃなくて、ち、違わないんだけど…!」

「い、イヤ!その!分かってる!俺ユーレイだしな…!あ、いや!ユーレイじゃなかったらとかそーゆーコト言いたいワケじゃなくてな!唯が言ったのはそーゆーコトじゃないっていうのを分かってるってゆーかな!俺もそうゆーのじゃなくて好きっていうか…あ!これはそーゆーのとは違って!イヤ違わないんだけど!」





お互いに、全く、全然言い訳にもなんにもなっていない言葉を次から次へと並び立てる。





「……その、ホントごめん」

「謝りっぱなしだな、お互い」






逸らしていた顔を見合わせて、クスリと笑う。





「“ありがとう”だよね、こーゆー場合」

「それもなんか違うくないか?」





「ううん、消えないでくれて、“ありがとう”」

「あァ、そーゆーコト。じゃあアレだな。エネルギーくれて“ありがとう”」






そう言いながら、また笑う。






泣く回数も増えたけど、笑う回数はもっと増えた。






ホントに、ホントに、全部雫のおかげだ。






いっぱい言い訳を重ねたけれど、






小柄で華奢で、ガキっぽくて、お調子者で、大食いで、小生意気だけど、






…ユーレイだけど。






でも、心の中では、はっきり言える。






あたしは──雫が、好きだ。