─あたしのせいだ。





ユリが落下した階段は、そんなに絶望的な高さじゃない。あたしがユリを庇って落ちても、ユリは多分軽いケガで済んだ。





当のあたしだって、あの高さなら悪くても捻挫か打撲。ヘタしたら今と同じように無傷だったかもしれない。






それなのに、あたしは怖さのあまり雫を呼んだ。我が身可愛さに、助けを求めたんだ。






「雫、雫っ…!!」

「だ…大丈夫。休憩所に緊急信号送ったから…多分もうすぐ、助けが…」





そう言った雫がまた低く呻いて、自らの身体を押さえる。こうしている間に、雫の存在が、どんどん、どんどん薄くなっていく。






間に合わない。直感でそう思った。






頬を涙が伝う。こんな風に涙が流せるようになったのも、雫のおかげなのに。





「消えないで…雫っ!」






雫が消えてしまう。あたしのせいでエネルギー切れになった雫が…。






「エネルギー…」






…そうだ。エネルギー。






「雫!あたしの手、握って」

「…え?」






苦しそうな顔をしたまま、雫があたしの顔を見る。






「充電、あたしで充電して!」

「あ…いや、でも」






「でもじゃない!早く!!」





やり方なんて分からない。とにかく、あたしは雫の隣にひざまづいて、雫の左手の上に自分の両手を置いた。





雫の手にはさわれない。雫の手を貫通して、冷たいコンクリートがぺたんとあたしの両手に触った。






「守護霊が憑き主からエネルギーを奪うなんてダメだよ…平気だから…」

「ウソ!間に合わないんでしょ?それくらい見たら分かるんだから!」





小さな声で抗議する雫に、怒鳴った。






しゃべるたびに涙が流れるのも構わず、とにかく、とにかく叫んだ。





「お願い、雫…消えないで…!」





消えないで。

消えないで。

消えないで。




雫、消えないで。

何度も願った。





「お願いっ…雫っ」

「唯…?」







「…そばに、いて」








ポロっと言葉が口から転がって。





はっとした。





そうだ…って。





今さら気付いたんだ。





「立ち直った」なんて、馬鹿馬鹿しいくらいの勘違いだったんだって。





あたしは、雫がいるから立ち直ってるんだって。





雫を失って、またひとりになってしまうのが、






──ううん。違う。





「雫自身を失ってしまうことが」、たまらなく怖くなってしまっているんだって。






気付いて、一層涙が溢れてきて。






雫の顔の横に、倒れ込むように自分の口を近付けた。









「そばにいて─好きなの、雫っ…」