「あっ、そーだ。わたし先生に職員室呼ばれてた」





お昼を食べ終わってしばし団欒にいそしんだところで、ユリが唐突に叫んだ。





「あと15分しかないじゃん。放っとけ放っとけ、どうせ大した用事じゃないよ」





ミユナが気だるそうに手をぷらぷら揺らしてそう言った。





「進路希望のプリントでしょ?悩むのも分かるけどね」





モッチがフォローを入れる。進路希望のプリントと言えば、もう何週間も前に提出期限が来てるはずだけど。





「適当に進学って書いて出したらいいのに。どうせ今書くのも暫定的なヤツじゃん」

「まぁねー。でも、わたし陸上選手のトレーナーになるの夢だからさ。色々学校調べてるうちにこんな時期になっちゃった。あはは」




ユリはへらへらと笑ってそう言った。意外としっかり将来のことを考えていたみたいで、ちょっと尊敬する。





「選手じゃなくて、トレーナーなのな」

「選手としては才能ゼロからねぇ、わたし」




ミユナの問い掛けにも、事も無げに答えるユリ。





「それより、すごい選手をもっとすごくするのって、カッコよくない?」

「言ってるコトは分かるけど、言い方がバカっぽい」

「なにぃ!モチにゃんもすごいすごくしてあげようと思ってるのに!」





モッチのツッコミもどこ吹く風といった感じで、ユリは明るく将来の夢を語った。





「わたしの教え子が、世界陸上で世界新記録を出すことが、わたしの目標なのだ!」

「分かったから早く行って来いよ。アンタの話聞いてるうちにあと10分になったぞ」

「おっと、りょうかい!いってきまーす」





ぴょこぴょこと、小走りで教室の扉に向かうユリを眺める。





「ユリが、トレーナーね…」





呟く。ユリが、トレーナー。

うん…不安だ。

ちらりとモッチと顔を見合わせる。





「私も不安」





それを合図に、ふたりで声を出して笑ってしまった。





「ひでぇなァ、お前ら」





ミユナもそう言いながら笑顔を見せる。





「もちろん応援するよ。ね、モッチ」

「当たり前でしょ。それに、あれくらいおバカな方が逆に大物感出るかもね」

「あはは、確かに」





もう一度笑い合って、ユリの壮大な目標に感嘆しつつ、その小さな背中を見送る。