つまりは、雫がいない間にそういう悪霊に遭遇しないようにするためだ。




「『霊感』なんて大袈裟なコトいうけどさ、要は感受性でしょ」




霊感のある人は、ユーレイという「電気情報」を受信しやすい体質、ということ。





さしずめ、ラジオのアンテナみたいなものだろうか。自分も電気、相手も電気なら、周波数さえあえば受信できる。そんなイメージだ。





「今までで一番察しがいいね、高良クン」

「ようやくそのウザイ言い回しにも慣れてきたわ、神谷サン」





雫が手を伸ばしたトーストの残りをひょいと奪って、口に放り込む。





「あー美味しい」

「あっ!最後に残しといたのに!!」





騒ぐ雫を尻目に、雫の食器をシンクに運ぶ。





「で?具体的にどうなるの?霊感が付いたら」

「悪霊とか地縛霊のいる場所が分かる。なんとなくね」

「あー、なるほど」





例えば、いつもの帰り道。





なんとなく、今日はこっちの道は止めておこう、と思うときが、霊感のある人にはあるらしい。




なんか、イヤだなぁ、と思うとか。




寒気がするなァ、こっち、と思うとか。





「そう。感覚以外に、目で見えることもある。『黒いモヤモヤ』とか、『灰色の霧』とか」

「うぇっ…それ怖そう」





「モノにもよるけど基本そーゆーときは、悪霊か地縛霊がいるから、通っちゃダメ。ロクな目に遭わないよ」

「知らぬが仏ってヤツだねぇ。結構便利だけど、やっぱ怖い…」





お皿を洗いながら、ため息をつく。




「万一に備えてだよ。そうそう悪霊なんて遭うモンじゃない」

「命に関わるとはいえ、たかが『万一』のためにエライもんもらっちゃったなー」





「俺のバイト期間中にその『万一』があったら大変なんだよ。唯のばあちゃんに合わせる顔ないし、なによりエンマのおっさんのカミナリが一番怖い」

「あんたも色々背負ってんのね」





「『上位ランカー』は他の守護霊の規範とならねばならんのですよ」

「その『上位らんかぁ』っての、なんか笑える」





冗談を交わしているウチに洗い物も終わって、家を出る時間になった。





「霊感なんてあったって、絶対得しないと思うけど」

「ま、イヤだったらバイト終わるときに消してあげるから。しばらくは我慢してくれ」

「はいはい」





あたしは変わらず能天気な雫の笑顔に苦笑を返しながらソファーに置いておいたカバンを肩にかける。





雫の話は今んトコ、SFとオカルトの丁度中間といったところ。





雫にとってはノンフィクションでも、とりあえずあたしには雫が見えること以外に、特に変わった出来事はない。





霊感なるものを手に入れたあたしに、このあと何が待ち受けているのか。





不安よりもわずかに期待が上回った状況で、あたしは足取り軽くドアを開け、学校へと小走りで向かった。