「これでいいの?」

「そう、そのままじっとしてて」





差し出した両手を、雫がきゅうっと握る。





2秒、3秒、4秒。





5秒。





「ほい、オッケー」





手を離した雫がコクンと頷いた。





「おめでとう、これで唯に霊感が身に付きました」

「イヤだなぁ、なんか」





不安の声を漏らしながら、朝のコーヒーに口をつけるあたし。それを見て苦笑するのは自称守護霊の神谷雫。





「なにも恐ろしい悪霊や血塗れのゾンビが見えたりするワケじゃないから。そんな怖がんなくて大丈夫」






雫が霊感の譲渡を申し出たのは、昨夜のコト。





「昨日説明したじゃん。守護霊って四六時中憑き主のそばにいられるワケじゃないのよ」

「休憩所への定期連絡とか、充電とか、他の仕事とかでしょ」





「そう。では問題。俺はなんの仕事担当だったでしょうか」

「便利屋ジョン・ホールトン収集委員会」





「無理やりボケないで」

「ごめん、ボケ待ちかと」





「変異情報収集委員会!」

「知ってる。浮遊霊を休憩所に連れていくんでしょ」





人が死ぬと、人の魂は、電気信号でできた情報として、現世に留まる。





それがユーレイ。





ユーレイはみんな、休憩所に運ばれる。そういうシステムなんだと、雫から教わった。





「ユーレイを休憩所に導くのも、休憩所のユーレイがやってるってワケね」

「そう。ユーレイが現世にいると、生きてるヒトにも悪影響だから」






「なんで?」

「電気エネルギーを人間から奪おうとするからさ」





雫専用の甘いカフェオレをくいっと飲み干して、雫が説明を続ける。





「ユーレイのガソリンが電気っていうのは、こないだ話したよね?」

「うん」





「人間も、一定量の電気を帯びてるってのは知ってる?」

「生物で習ったよ」





「じゃあ説明はもう不要だね」

「あー、『取り憑く』って、つまり『電気を奪う』ってコトなんだ」





「そう。ユーレイは、電気エネルギーを生きた人間から接種できる。俺たちは休憩所で充電が可能だからそんなコトしないけどね」

「それを聞いて安心したわ」





ユーレイは、人間からも充電が可能。





ユーレイが人間に悪さをしたり、取り憑いたりするのは、まさにそれが理由なのだという。





「ユーレイが必要とする電気の量はそんなに多くなくていい。でも、休憩所に行ってない浮遊霊はそんなの分からないから、人間から必要以上の電気を奪ってしまう。霊的な現象に遭遇した人が体調を崩したり死んだりするのは、おおむねそのせいなんだよね」

「なるほどねぇ…」





空いた食器を片付けながら、生返事する。





辻褄はあってる。





ただ、ピンと来ない。いつもの感じだ。





「まァ、いいよその辺の事情は」





問題は、なんであたしが霊感なんか身に付ける必要があるのか、という点だ。




薄々分かってはいるけれど。