大半の人間には、守護霊が憑いている。





大抵は、その人の血縁や、ご先祖様がそれであって。





守護霊は、憑き主がなにか危険な事態に陥った時、身体を張って憑き主を護る。






それで。






あたしの今までの守護霊は誰だったかというと、母方のおばあちゃんなのだと雫は言う。






おばあちゃんは、あたしが産まれるずっと前に亡くなっていて、あたしは写真でしかおばあちゃんの顔を知らない。





厳しさの中に確かな優しさを持った、強い女性だった、と。生前のお母さんや、おばあちゃんをよく知る親戚の人は口を揃えておばあちゃんを褒めていた。






そのおばあちゃんが、産まれた時からのあたしの守護霊。






「すごいヒトなんだぞ、唯のばあちゃんは。休憩所でも有名で、戦国武将や軍人のユーレイにも負けないくらい力のあるヒトなんだ」

「……」






「で、俺は、唯のばあちゃんの代わりにここに来たワケ」

「…あのさ」







授業中、窓際の席で頬杖をついて、小さく呟く。







雫の説明を受けて、納得したコトは結構多い。







おばあちゃんが、今までの守護霊。






優秀な守護霊でもあったおばあちゃんが、今まであたしを護ってくれていたという事実は、素直に「嬉しい」と思えたし、あたしが過去に体験した死んでもおかしくないような事故を思えば、あたしが今こうしてのうのうと歴史の授業を受けていられるのも、おばあちゃんが護ってきてくれたおかげなのだと思うと、なるほど、合点がいく。





ただ、今あたしの守護霊をやっているのは、雫だ。






じゃあ、おばあちゃんは?






「おばあちゃんは、どうなったの?」






頬杖にしてる手が、無意識に震える。






「あァ、ぎっくり腰で療養中」






手がズルっと滑って、顔を机にぶつける。






「ぎ、ぎっくり腰!?」






先生や周囲の生徒に見つからないように、小声で聞き直す。






「そう。全治2週間だそうだ。だからその間、臨時の守護霊として、俺が来た。バイトで」






守護霊のバイト。





守護霊を持たない人間のために、憑き主の血縁のユーレイの依頼を受け、休憩所がユーレイを派遣する。






「あー…。で、派遣されたのがアンタってわけね」

「そういうこと。だから言ったろ?俺が唯に憑いてんのは、偶然なの。唯のばあちゃんが偶然腰を痛めて、そのタイミングで俺が守護霊バイトの申込みをしたってワケ」






「なんていうか、なんつーか、なんとも言えない気分だわ、今」

「まー、短い付き合いだけど改めてヨロシク頼むわ。安心して、俺も守護霊としてはかなり優秀、上位ランカーだよ。なにせばあちゃんの代わりで来たんだから」







窓枠に腰かけて空を眺めていた雫が、こちらを向いてパチンっ、とウインクをした。






「『上位らんかぁ』ねえ…」

「あっ、唯!信用してないだろ!」






まァ、そういうワケで、雫はあたしの臨時の守護霊で、おまけに本人いわく「優秀」で、「上位ランカー」というコトらしいのだけど。






目の前でわーわー騒ぐ雫を見ていると、そんな大仰な肩書よりも、






「よく食べるペット」の方が、あたしにはよっぽどしっくりきた。